三宅桃子
渡り漁夫星のかたまる下をゆく
ラーメンの泉に屈む春の昼
矢羽野智津子
花吹雪追いかけるので待たないで
春の宵頬をとがらすビスケット
吉田悦花
春雷に身震ひしたる壁鏡
芹そばや賞罰も犯歴もなし
吉野秀彦
巣造りの山鳩紅き目を腫らし
生れ出るもの皆しわくちゃぞ牡丹の芽
上野葉月
まつさきに泡立つ春のサイゼリア
本妻の彼岸詣に呼吸あり
岡田由季
帰る鴨前方後円墳越ゆる
春の蚊の本気の翅音してゐたり
楠本奇蹄
エイプリルフール空欄から暮れる
飛花落花ことばを濁す暇もなく
こしのゆみこ
背を青くして枝垂桜の中にいる
自転車を漕ぐよ桜を咲かせゆく
近恵
満開の桜並木だ腹が減る
抜け殻に名の書いてある春の昼
齋藤朝比古
つばくらめ信用金庫より発てり
へべれけの赤塚不二夫あたたかし
しまいちろう
春寒や裏から入る異人館
おぼろ夜の事件のごとく電話鳴る
高橋洋子
陽炎ひてふかぶかふゆるゑそら事
中庭を白もくれんのこの世かな
中内火星
承服はいたしかねます鳥帰る
格納庫広く大きく菫かな
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